踏査報告(上大須)

調査地:上大須 
天気:晴れ
メンバー:いとめぐ先輩、とわた先輩、いもこ、なかつ
今回は一生忘れられない&クマ研の歴史に残るであろう踏査となりました。その理由はブログの後半で……
この日は朝から調査地へ向かうための車が行方不明というハプニング。どうやら、いつもと集合時間が違うことを知らなかった先輩が別件で車を使ってしまった模様。結局、メンバーの1人に個人の車を持って来てもらい、それに乗って調査地へ。
 若干遅れてしまったものの、無事に上大須に到着し、踏査開始。下草が茂った登山道を登って行きました。足元をよく見ると、どれも上部で切り取られた跡が。繊維が残っているものもあり、シカの食痕かなとも思いましたが、高さが一定だったので刈り取られた後に成長しただけかもしれません。しかし、少し歩くとシカの糞もたくさん見つけることができました。中には親子のものと思われる大きさが違う糞も。ここにシカが多数生息していることは確かなようです。
 シカに糞が見つかり始めた頃、同じくらいたくさん視界に入ってきたものがありました。茶色くて少し細長いものが地面をウネウネと……
野外での調査経験がある人なら分かりますよね。そうです。あいつです。ヒルです。前日が雨だったこともあり、かなり多くのヒルがいました。しっかりヒル除けをして行きましたが、気付けば靴の上を這っている惨状。途中で再度ヒル除けのスプレーをする羽目に。みんなで「キモーイッ!!」と叫びながら登って行きました。
 さて、ヒル地獄の中をさらに登って行くと、目の前に倒木が。倒木の向こう側はかなり茂っており、進むのは大変そうです。ただでさえヒルが多い上に、日中は30℃を超える予報という悪条件の中の踏査です。このまま引き返そうかとなりましたが、それには時間が早すぎる……というわけで、倒木の手前の少し開けたところで、この先どうするかを話し合うことに。自分の前にいた他の3人が開けたところに差し掛かったその時……事件は起きました。
 倒木の脇にあった木(スギ?)の上から、ガサガサッという大きな音が。すぐに「クゥークゥー」という高い鳴き声を上げながら1頭の動物が木を下りてきました。
(サル……?)
いや、違います。色が黒っぽく、いわゆる四足動物といった体形です。
(サイズ的に……アナグマ……?)
でもよく見ると……全身真っ黒。
 (……クマ!?子グマ!?)
 すると今度は、木の横の茂みの中から「バウッ」という低い声。直後に茂みから大きな黒い顔がひょっこり。自分たちとの距離はわずか数m。
 (クマァァァァァッ!!!!!)
 一瞬、全員が固まりました。あの時が止まったような瞬間は今でも忘れられません。めっちゃ怖かったです。後ろにいた他の3人、特に最前線でクマと対面していたとわた先輩はもっと怖かったと思います(ちなみにいとめぐ先輩といもこは母グマと目が合ったとのこと。そりゃ固まりますわ……)。
実はこの時、自分は子グマしか見えていませんでした。最初は子グマと信じられませんでしたが、他の3人の反応を見て確信に変わりました。そしてすぐに「子グマがいるならば、近くに母グマがいる」ということに考えが至った自分は、一刻も早くその場を離れようと思ったので、来た道を引き返して逃げようとしました(真っ先に逃げ始めたのはサイテーですけど……)。それを見た他の3人も自分に続いて急いで引き返し始めました。
それからは必死になって山を下りました。幸い母グマは襲い掛かったり追いかけたりしてくることはなく、途中からは早歩きで下山。(一人ヒルに咬まれましたが)全員無傷で生還しました。
 下山後は当然、大反省会です。無事にクマから逃げ切れたものの、クマに遭遇するまでの準備や行動、クマに遭遇してからの行動は正しかったのでしょうか?
クマに遭遇する前、自分たちはクマ鈴を装着して比較的大きな声で話しながら登山していました。山の中でご飯を食べていたわけでもありません。クマに「遭わない」ための対策はおこなっていたと思います。
しかしながら、クマと鉢合わせてからの行動は、適切な対応とは言えなかった部分があったと思います。まず、母グマが出てきた後に、自分たちは背中を母グマに向ける形で走って逃げてしまいました。これはクマを驚かし、追いかけられる可能性があるため、やるべきではないとされる対応です。今回は母グマの存在に気付かなかった自分が逃げ始め、それに続いて他の3人が後ろから順に逃げたので結果的に相手を驚かすことはなかったですが、転倒や滑落の可能性もあり(登山道の途中に片側が切れ落ちているところもありました)、非常にリスクのある行動だったと思います。一方で、(個人の意見ですが)子グマを放置してまで母グマが追いかけてくる可能性は低く、むしろクマの親子からすぐに離れようとしたことは良かったのかなとも思います。これについては何が正しいのか、まだ自分の中で結論は得られていません。今後の課題としたいと思います。他には、携行してすぐに取り出せる位置にあったクマスプレーを構えられなかったことも大きな反省点です。クマスプレーの使い方・使う場面は頭では知っていましたが、実際に使ったことはありませんでした。そしていざクマに出会うと、その場を離れたい・逃げたいというようになってしまい、(実際に発射するかどうかは別にして)クマスプレーを構えることに考えが至りませんでした。また、今回先頭の人のみクマスプレーを携行していなかったことも、クマスプレーを構えられなかった原因の1つだと思います。
 これらの行動をしてしまったのは、クマに遭遇した時に自分たちがパニックになったからなのは言うまでもありません。そして、自分たちが冷静になれなかったのは「クマに遭遇すること」への意識が足りてなかったからです。今までクマに出会ったことがなかった分(現在のクマ研が出来てから、山中でクマと鉢合わせるのはおそらく今回が初)、やはり心のどこかで「どうせクマに出会うことはないだろう」という油断・慢心がありました。今後は「調査地にはクマがいる」、「調査中にクマに遭遇することは十分ありうる」ということを常に頭の中に置いて、一層緊張感を持って行動していきたいと思います。
 結局この日の踏査はそのまま終了し、車を止めた道路脇の植生観察(ハコネウツギ等がありました)と昼食を経て、大学へ戻りました。植生観察の途中、道端には多くのサル糞が。様々な植物の繊維や種子が含まれており、中にはサクラの仲間の種子といったこの季節ならではのものもありました。実際に生えている植物だけでなく、このような糞の内容物からも植物の多様性が感じられました。
 振り返ると、クマ遭遇という大事件以外にも、車が行方不明になったり大量のヒルに悩まされたりと色々あった1日でした。それらのハプニングがあったせいでタイミング悪くクマに遭遇してしまったとも言えなくはないですが、逆に茂みの中や(山を登って逃げなければならない)帰り際にクマに遭遇することが避けられたのかなと思うと、本当はラッキーだったのかもしれません。山中で親子のクマに鉢合わせるという非常に危険なシチュエーションに置かれながらも、全員が無事に帰って来ることが出来、一生語れる貴重な経験で終わったなんて、中々ないことでしょう。天の思し召しと思って、クマ研全体として野外調査への姿勢を正し、クマとの遭遇の予防や遭遇時の適切な対応について改めて深く考える機会にしようと思います。

タイムスケジュール
08:45 大学発
09:25 樽見駅着
09:35 樽見駅発
10:08 上大須着
10:16 踏査開始
10:56 クマ遭遇
11:11 下山完了
12:04 上大須発
12:15 ダム横の駐車場着・昼食
12:56 ダム横の駐車場発
14:00 大学着


 (なかつ)

岐阜大学ツキノワグマ研究会

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